旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 分かりやすく心臓が跳ねる。
 前にも似たことを訊かれた。けれど今の訊き方は、あのときとは明らかに違う。声にも口調にも、納得のいく答えを聞けるまでは譲らないとでも言いたげなニュアンスが滲んでいるように感じる。

「……結婚記念日をすっぽかされたから、ではないです。だから本当はこんなふうに気を遣ってもらう必要もなかったんですけど、最後に思い出作りできて良か……」
「駄目だ。最後にはしない」

 冷静を装って告げた言い訳がましい言葉はあっさり遮られ、喉が詰まる。
 離婚の意思を伝えた日とはやはり声色が違う。あのときは焦りのまま口を動かしている感じだったけれど、今は。

 心臓がどくどくと早鐘を打つ。そんな私の隙を見透かすように、長い指が伸びてくる。
 首に狙いを定めた指が触れたのはネックレスのチェーンだ。それを私の首ごとなぞりながら、長い指はネックレスのトップを目指してゆっくりと動く。

「離婚届を渡された日はそこまで頭が回らなかったが、違和感が多すぎる」
「い、違和感って、なんの」
「君の言動の」

 淡々と返され、ひゅ、と喉が乾いた音を立てた。
< 75 / 244 >

この作品をシェア

pagetop