旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 顔が引きつる。目も泳ぐ。
 取り調べ中の被疑者がこの目に射抜かれながら嘘をつくのは至難の業だろうな、という場違いな感想が頭の端を過ぎる。

「どう贔屓目に見ても、〝浪費三昧の我儘女〟だと俺に吹聴されても構わないほどの理由があるとは思えない。納得できる理由を教えてくれないか」
「……理由、と言われましても」
「届はまだ処分していない。俺なりに君の意思を尊重してるつもりだ、だが前にも言った通り俺は記入しない。少なくとも、納得に値する理由を君の口から聞き出すまでは……あの紙切れだけでは、どのみち離婚は成立しない」

 ネックレスのトップに触れていた彼の指は、チェーンをなぞるようにして首を辿り、それから喉を伝って唇に辿り着く。
 身を引いた分だけ迫られてしまう。挙句の果てには空いた手に手首を掴まれ、私は後ずさることすらできなくなる。

「け、結婚とか、やっぱり私には無理だなって……いうだけなんですけど」
「なら、なんで今こんなに顔が赤いんだ? 離婚したがってる相手に見せる顔じゃない」
「っ、それは……」

 硬い親指が唇をなぞる。
 その感触のせいで、声が露骨に上擦った。
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