旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 相手のペースに呑まれたきり、離婚を考えた理由やその原因についても洗いざらい吐き出してしまいそうだ。
 そうなったら私は、この人の妻にふさわしくない考えの持ち主だと本人に知られてしまう。それなら離婚するしかないな、と和永さんを納得させてしまうことになる。

 ……いや、それでいいんじゃなかったっけ?
 そのために離婚届を用意したんじゃなかったっけ、私?

 事実、そのほうが確実に離婚できる。
 それでいいはずなのに、私は言えない。言いたくない。

(だって本当は、私、)

 結局はなにも返せず口を噤むしかなかった私を見下ろしていた和永さんが、不意に上体を屈め、泳いでいた目がさらに左右に忙しなく動いてしまう。
 唇を撫でていた手が、いつの間にか腰に回っている。抱き寄せられ、屈んだ彼の顔がゆっくりと近づいてきて、その間も私はただ息を乱しているしかできなくて、そして。

「離婚したいんだろ。ちゃんと拒んだほうが良くないか、このままだと」

 ――キスしちゃうけど、俺。

 耳に触れているのではと感じるほど近くまで唇を寄せられ、固まったきりの私はぴくりとも動けない。いくら人通りが少ないとはいっても人目はゼロではないし、視線だって感じる。

 堪えきれず、固く目を瞑った。
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