旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 届そのものは結婚から間もなく入手した、と言っていた。
 仕事を辞めなかったのも、最初からそういう将来を想定していたからなのかもしれない。なにも知らずに一年の結婚生活を『なかなか悪くない』と思って過ごしてきた自分の能天気具合に、今さらながら反吐が出る。

「どうすればいいと思う?」
「どうってお前……別れてあげたら?」
「無理だが!?」
「なんで!? お前、奥さんに対して前からそんな感じだったか!?」

 思わず声を張り上げて答えると、つられたのか織田原も叫ぶような声で尋ね返してくる。
 奥さんに対して前からそんな感じだったか――実際、答えは否だ。急激に居心地が悪くなる。

「というか、どうしたらいいか分からない。離婚したいと思ってるなら絶対やらないようなことばかりするんだ、あの人」
「へぇ。例えば?」
「離婚届を渡してきた日に俺の分まで夕食を作ってくれたり、一緒に食べてくれたり……他にもいろいろある。そんなに俺が嫌なら実家に帰ってもいいだろうに、それもしない」

 昨日も同じことを思った。
 離婚したいと言うわりに、妻の言動はどれもちぐはぐで辻褄が合っていない。
< 85 / 244 >

この作品をシェア

pagetop