旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
『自分の分は用意しなくてもいい』
最初にそう伝えたのはいつだったか。
結婚して間もない頃に一度、それから間を置いて直近に一度。一度目はやんわりと、二度目はきつい調子で伝えてしまった。そう、その二度目が結婚記念日の当日だ。
負担だろうから、とやんわり伝えた一度目の後、しばらくは用意されない日が続いていたが、ときおり多めに作ったらしきものが『お腹が空いてましたらどうぞ』というメモ書きとともに冷蔵庫に入れられるようになった。
薫子の料理はどれも優しい味がする。栄養とかエネルギー量とか、激務に耐えられる身体を維持するためだけ――食事に対して、特に近年はそういう認識しか持っていなかったのに、疲れた心身に信じられないほど沁みる。気づけば箸が止まらなくなっている。
その配慮がありがたかったくらいなのに、よりによって節目となる大切な記念日に、あんな冷たい言い方で突き放してしまった。
あのときのやり取りが、すでに離婚を切り出すか迷っていた彼女の背中を押したのだ。申し訳が立たない。
無言のまま食事を進め、完食した頃、織田原がライスのおかわりを頼みながらようやく話を再開してくる。
「奥さんって市条本部長の姪御さんだっけか」
最初にそう伝えたのはいつだったか。
結婚して間もない頃に一度、それから間を置いて直近に一度。一度目はやんわりと、二度目はきつい調子で伝えてしまった。そう、その二度目が結婚記念日の当日だ。
負担だろうから、とやんわり伝えた一度目の後、しばらくは用意されない日が続いていたが、ときおり多めに作ったらしきものが『お腹が空いてましたらどうぞ』というメモ書きとともに冷蔵庫に入れられるようになった。
薫子の料理はどれも優しい味がする。栄養とかエネルギー量とか、激務に耐えられる身体を維持するためだけ――食事に対して、特に近年はそういう認識しか持っていなかったのに、疲れた心身に信じられないほど沁みる。気づけば箸が止まらなくなっている。
その配慮がありがたかったくらいなのに、よりによって節目となる大切な記念日に、あんな冷たい言い方で突き放してしまった。
あのときのやり取りが、すでに離婚を切り出すか迷っていた彼女の背中を押したのだ。申し訳が立たない。
無言のまま食事を進め、完食した頃、織田原がライスのおかわりを頼みながらようやく話を再開してくる。
「奥さんって市条本部長の姪御さんだっけか」