旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「いつの話をしてる……というか俺に難があったみたいな言い方はやめてくれ」
「あは、そうですよね~。一生懸命告白してくる女の子たちのこと、お前なりに誠実に相手してあげてたんだもんね~」
「舐めた口調も改めろ。だいたい『してあげてる』なんて考えたことは一度もない」
「ならお前、その子らのひとりでも顔とか声とか思い出せっか?」

 虚を突かれ、一瞬返答に迷った。
 目が泳いでしまう。恋人と呼べる女性は学生時代に何人かいた。だがその誰もが、名前も顔も朧げにしか記憶にない。

「いや。思い出せない」

 返事の声は自然と弱々しくなる。
 十年以上前の記憶なら曖昧で当然だという気持ちと、不誠実が過ぎるのではという気持ちが、ほぼ同時に湧き起こってくる。

「お前さぁ、正直者すぎるって。ほんと真面目っつうか実直っつうか」
「……別に普通だ、このくらい」

 ばつの悪い気分で答える。
 こういう話を織田原はためらわない。単に普段のこの男らしく、必要なタイミングで必要な話をしただけなのだろう。

 就職して以降、周囲の紹介や付き合いで知り合った女性たちとも、結局は碌に続かなかった。
 相手からの好意に応えようと試みても、相手の望むものは返せなかった。
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