街角ファンタジーボックス
 雨の日も風の日も客はやってくる。
そしてコーヒーやジュースを飲みながらマスターと他愛もない話をする。
 結婚に失敗して帰ってきた人も居る。 仕事に追われて舞い戻ってきた人も居る。
知らない間にいろんな人たちが集まってくる。
ここは人生劇場みたいな店だね。

 閉めるのは10時過ぎ。 塾から帰ってきた小学生だって立ち寄るから。
何でも子供のうちから勉強をさせるって親が利かないんだそうで、、、。
「あんたもかわいそうだなあ。 ちっとは遊びたいだろう?」
「でもお母さんが言うから、、、。」 「まあジュースでも飲んでゆっくりして行きなさい。」
 その子の親もこの喫茶店にはよく来るんだよね。
「勉強勉強って言えばいいってもんじゃないんだぞ。 あんたは出来るか?」
「出来ないことは有りませんが、、、。」 「じゃあ出来ないんだな。 出来ますって言えないじゃないか。」
グサッと切り込まれた親は一瞬黙りこくってしまう。
 「勉強なんてなあ、一生掛かってやるもんだ。 子供時代に集中してきちがいみたいに詰め込むもんじゃない。」
そうは言うけれど言い出しっぺの母親としては後に退けなくなっているのも現状。
なんてったって「いい学校に進めばいい会社に入れる。」ってみんなが呪文のように唱えているんだから。
 俗に言う『高学歴高収入高青年』ってやつね。
だからさああっちでこっちで受験戦争がものすごいの。
東大だ、早稲田だ、京大だってみんなで張り合ってる。
落ちこぼれたらさあ大変。 ママ友から縁を切られてしまう。
 でもお父さんは東大を灯台だと思ったらしくて「何でそんな所に就職するんだ?」ってお母さんに聞いてきた。
話していたお母さんとしては「は?」って言うしかなくて返事に困ったんだって。
 「いいかい。 男ってやつはどんだけ働いて嫁さんと子供に食わせるか、、、。 それしか頭には無いんだよ。 大学だ何だって言ってもちんぷんかんぷんだよ。」
ここ数十年、コーヒーとケーキに命を懸けてきたマスターである。 さすがは実感がこもってるなあ。
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