街角ファンタジーボックス

　その代わり、気に入ったスープが出来なかった日は奥さんが声を掛けても喋らない。
一日中機嫌が悪くて窘めるのも大変だ。
　食事する時もずっと黙り込んでて何を話していいのか分からない。
お気に入りのスープが出来た日にはこちらが疲れてしまうくらいによく喋る。
　仕事人なら誰だってそうかもしれないなあ。
やっぱりね、仕事をするには根性だよ。
一度や二度失敗したくらいで投げ出すんならそいつは何をやっても成功しないぞ。
　成功するまで頑固にぶつかるんだ。　それが仕事人だよ。
木を削るんだって魚を切るんだってそうだろう？　一度や二度でうまくいくもんじゃない。
　何度も失敗しながら学んでいくもんだよ。　学びを馬鹿にしちゃいけない。
恋愛だってそうだよ。　一度で結ばれるなんて有り得ない。
　最初は合わないように思えても付き合ってるうちに合ってくる人も居る。
相性バッチリでも付き合ってるうちに合わなくなる人も居る。
　財産目当ての人も居れば体が目当ての人も居る。
付き合ってみないと分からないもんだ。　その中で選んでいくんだよ。
　今夜も熊太郎はラーメンを作りながらいろんな人たちと話すんだ。
そりゃね、見てるだけって人も居る。　金が無くて我慢してるんだな。
　毎晩ってわけにはいかないが一杯だけ御馳走することも有る。
「金は出世払いでいいよ。　頑張って大物になるんだぞ。」　そう言って笑うんだ。
　何年か経ったら「こないだは有り難うございました。」ってやってくる人もたまに居る。
そんな時は熊太郎も泣いて喜ぶんだそうだ。　「おー、いっちょ前になりやがったなあ。」
　皴を刻み始めた顔をクシャクシャにして喜ぶんだってさ。　「まあ食べていけよ。」
男の前に大森ラーメンをドカンと置く。　「いいんですか？」
「ああ。　一生に一度のお祝いだ。　食いたいだけ食っていけ。」　大盤振る舞いだなあ。
　男が帰ったら仕事も終わりだ。　片づけて家に帰る。
そんな日は布団に潜り込んでも寝れないんだよな　いろいろと考えちまって。
　（次は嫁さんだな。）とか（子供はどうかな？）とか、どっかの世話好きな爺さんみたいにさ。
そうやって夜が明けるんだ。