街角ファンタジーボックス

6. 銀行員

 「お金を下ろしたいんだけど、、、。」
「じゃあ、この紙に名前と口座番号と金額を書いて判子を押してくださいな。」
 「判子を押さなきゃダメなの?」
「そりゃそうだよ。 入れる時にはこちらが増えるだけだからいいけど、下ろす時には利子も計算しなきゃいけないんだからね。 それに下ろす人が違っても困るし、、、。」
 「判子忘れてきたんだよなあ。」
「じゃあ改めて出直してくださいな。」

 カウンターで事務員は涼しく笑って客を見送る。
周りでは貯金する人、引き出す人が手続きの順番を待っている。
隅のほうでは融資や借り換えの相談をしている人が居る。
 窓口業務は3時まで。 その後は気が狂いそうな試算業務が待っている。
口座と帳簿の金額が1円でも違うと試算はやり直し。
 夜まで掛かって行員はヘトヘトになって家に帰っていく。
融資の話が来ると利益が出るのか出ないのか激しい討論が始まる。
 利益が出ないような融資案件には冷たく鋭く[ノー]を突き付けることだって有る。
金を貸してこちらが倒れたんでは話にならないからね。
そうそう、利益がトントンでも問題にならない。
 だって預金してもらうのにも利子が掛かるんだから。
貰った金なら利子なんて払わないよ。 預けてもらってるんだから話は別。
 「あの話はどうなりました?」 「あの話?」
「駅前のうどん屋さんの話ですよ。」 「ああ、あれね。」
 支店長は相談を受けていた行員を呼びました。
「山下さんのお店ですよね?」 「そう。」
 「あそこは立地条件はまあまあいいんだけど集客が問題なんですよ。 一日当たりどれくらいの集客を見込んでますか?」
「そんなこと言われてもはっきりした数字は出せませんが、、、。」
「こちらも博打をやってるわけじゃないんでね、ある程度の予測を立ててくれませんか?」 「どれくらいならいいんです?」
 「そうだなあ、一杯200円くらいで計算して300人くらいとか、、、。」
行員は電卓を弾きながら客を見詰めているんですが、、、、。
 「300人ねえ。」 駅前を行き来する人たちの群れ、それ自体多いとは言えないこの町で、、、。
「まあ、ゆっくり検討してください。 まだまだ時間は有りますから。」
行員が席を立ったもんだから山下さんは(この話は終わったな。)と思ったそうです。
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