ページのすみで揺れていたもの
その日も、いつもと同じように目が覚めた。

だけど、体が重い。
いつもよりも、明らかに。

(……ちょっと、だるい……かな)

起き上がろうとした瞬間、
ふらっと視界が揺れた。

それでも洗面所に行き、顔を洗って、
鏡に映った自分の顔を見て――少しだけ眉をひそめた。

「……顔色、悪いな」

でも、生活はできる。
朝ごはんも、少しなら食べられる。

(風邪がぶり返しただけ。たぶん寝たら治る)

そう思って、薬箱から以前処方された風邪薬を飲んで、
毛布にくるまって横になる。

でも、時間が経つにつれて、
体がどんどん熱を帯びていった。

額は熱く、背中に汗が滲んでくる。
目の奥もズキズキして、関節が鈍く痛んだ。

(……これ、さすがに……)

熱を測ると、39.1℃。

「……やば……」

声が出た。
自分でも予想以上の数値に、
しばらく体温計を見つめたまま、動けなかった。

(……病院、行くべきかな)

でも、その考えと同時に、
“今さら何て言えばいいの?”という迷いも胸をよぎる。

藤澤先生に連絡すれば、たぶん来てくれる。
赤井先生のところでも、診てもらえる。

――でも。

手が、スマホに伸びなかった。

(まだ、自分でどうにかできる)

その言葉は、もう何度目だろう。

ただ一つ、
その日だけは――
薬を飲んでも、布団に入っても、
一度も熱が下がることはなかった。
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