次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
 私は諦めてお客様の部屋の前まで来た。
 夜間なので周りに音が響かないようチャイムは押さずにドアだけをノックする。すると、うっすらと扉が開いた。

「あ、柚希さん。よかった、来てくれて」
「お待たせしました、宮園です。ご要件をお伺いいたします」

 いつもよりラフな格好をした板倉様が、へらりと笑って頭をかく。
 夜なのに来てくれるなんて偉いねぇ、と彼は言うと、眠たそうな目を擦った。

「部屋の温度が暑くって。目が覚めちゃった」
「申し訳ございません。エアコンの効きが悪かったかもしれません。現在、一部屋だけお部屋が空いておりますので、そちらの部屋にご移動することも可能です。もしくは、扇風機やサーキュレーターなどの手配も可能ですが、いかがいたしますか?」

 いますぐにできる対処法はこの二つしかない。
 エアコンを直せと言われても、設備の修繕を依頼できる業者やスタッフはいなかった。
 だから、こちらから選択肢を与えて選ばせる。
 お客様にとって手間がかかる提案と、もう一方は手間がかからず、すぐに対応できる案。
 普通であれば、手間がかからない案を選ぶはず。

 そう思ったけれど、彼はまったく違う要望を口にした。
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