次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
 唇が離れて、彼が焦りを滲ませながらエレベーターのボタンを押したのを、私はぼんやりと見つめていた。

 ――こんなところでキスしてしまった。しかも、達成さんと。

 人間、不思議と心の許容量を超えると冷静になるものだ。
 私は彼に腰を抱かれながら、何度も訪れた二十五階に降り立つ。

 部屋へ向かう間、会話らしい会話はなかった。むしろ、何か話さなくてはいけないのだろうかと彼を見上げるたびに、戯れるようなキスが降ってくる。

 部屋の扉が開くと、もう一度、玄関でキスをした。

「あ、あの、私、まだ勤務中、で……」
「でもこれから宿直室でしょう?」
「そう、だけど……」
「なら、もう少しだけ……」

 下からすくうようにしっとりと口づけられて、キスだけで腰が抜けそうになる。
 引き際を見定められないまま、気付いたらソファーに沈んでいた。
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