次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています

「もしかして僕が知らない間に、祖父と会いました?」
「…………」
「会ったとき、何か言われました?」
「…………」
「……言われたんですね。わかりました」

 彼が苛立たしげにチッ、と舌打ちをする。ここまで荒れている彼を見るのは初めてで、私は叱られた子どもみたいに肩を跳ね上げた。

「そう、怖がらないで。柚希に怒ってるんじゃない。周りと自分に怒ってるだけだ。でも、怖がらせたのなら謝るよ」
「……うん」
「何度も言うけれど、俺には柚希だけだ」
「でも、お祖父様からは身を引けって……」
「そう言われて、柚希は納得したの?」
「納得、はできない。でも……」

 私にはどうすることもできない。何の力も持っていない。
 悔しいけれどこれが現実だった。

「大丈夫。俺がなんとかする」

 涙が溜まった目尻に彼の指が這う。優しく顎を持ち上げられて、触れるだけのキスを落とされた。

「だから、柚希は信じて待ってて」

 もう一度、キスを落とし、彼が部屋を出ていく。私は今しがた口づけられた唇を指でそっと撫でた。

「たっちゃんの、バカ」

 身を引くつもりだったのに。今のキスで、一瞬にして決意が揺らぐ。

 私の存在が彼を苦しめると言うなら、いくらでも身を引ける。そんなふうに思っていたのに。

「諦めきれないよっ……!」

 私はその場にうずくまると、ポロポロと涙を流した。
< 144 / 150 >

この作品をシェア

pagetop