次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
 更衣室に入ると、自身に与えられたロッカーの中から制服を引っ張り出した。ホテルから支給されるネイビーの制服を身に纏い、最後にスカーフを結ぶ。
 今日一日、ずっとこんな調子で噂されるのかも……とげんなりしていると、更衣室の扉が開いた。

「このあとすぐ、緊急ミーティングがあるとのことです。いまいるスタッフのみで構わないので、カンファレンスルームに来てください」

 必要最低限のアナウンスだけして、新人らしき子が慌てて更衣室を出ていく。

 会議とは珍しい。よっぽど急ぎの通達でもあるのだろうか。

 以前、警察沙汰に繋がるような暴力行為や過失があった際、スタッフが呼び出されることがあった。
 でも、大半の問題は担当者レベルで秘密裏に処理され、後日通達されることが多い。
 基本的には業務優先、お客様第一だ。

 珍しいこともあるものだと思いながらカンファレンスルームへ向かうと、シフトに入る前のスタッフで溢れていた。

「急にお呼びだてして申し訳ございません」

 ホテルの総支配人である男性社員がみんなの前で頭を下げる。

 総支配人はホテルの運営全般を担うポジションの人だ。私もコンシェルジュになってから顔を合わせるようになったけど、あまり会話をしたことがない。
 非常に激務で、日々の連絡事項程度であればその次のポジションである副支配人が担う。
 総支配人が出てくるということはよっぽどのことなのだろう。
 ぼんやりと目線を下げつつ話に耳を傾けていると、急に周りがざわつき始めた。
 
「今日付けで当ホテルの最高責任者が交代します。当ホテルは広瀬グループによる運営のもと、海外を含め五つの拠点があることは皆さんご存知だと思います。この度、本店であるロサンゼルスから最高責任者、広瀬達成様が来日されました。今後はここ東京を拠点にグループ全体の運営を行うとのことです。また、暫く視察として――……」

 さっきから説明が頭に入ってこない。
 だって、私の目の前に立っているのは――

「広瀬達成です。よろしくお願いいたします」

 まさかの、彼だった。
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