次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
02 そんなの聞いてない!
 あのあと、彼とは連絡先を交換し、ホテルのロビーで別れた。
 正直、彼の恋人になるといっても、なにをどうしたらいいのか分からなくて、私から連絡は取っていない。

 そうして婚約破棄、幼馴染との再会、期間限定の恋人契約、と激動の一日を過ごした二日後。
 私は陰鬱とした気分で、ロイヤル・ローズ東京の従業員入り口から地下へ繋がるエレベーターへと乗り込んでいた。

 地下フロアは厨房やリネンを管理する巨大なランドリールーム、果ては花屋に至るまで、お客様に最上級のもてなしをするための設備が整っている。
 その他、外に出られない従業員のために用意された美容院や仮眠室もあり、客室に赴かないスタッフはこの地下で大半の時間を過ごすことになっている。
 ひとつの街のような作りになっており、新人の頃はよく迷子になったものだった。

 そんな地下都市ともいえるフロアに足を踏み入れ、ぎゅっと鞄を胸に抱く。
 案の定というべきか、私の噂は既に広まっているようで、いろんな人から好奇な目で見られた。
 ホテル業に従事する私たちのような人間にとって、この小さなコミュニティで起こるゴシップは格好の餌なのだ。

 ラウンジで婚約者に逃げられたらしいよ。
 声を上げて泣いてたって。
 それ本当なの? ちょっと聞いてみる?

 などと言った声を受け止めながら、私は更衣室に入る。
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