次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
「た、達也さん!?」
「……もし、困ったことがあれば必ず僕に言って。あと、無茶はしないで」

 まるで懇願しているかのようだ。
 私もお客様に暴力をふるわれてびっくりしたけれど、彼も同じだけびっくりしたはずで、不安にさせたに違いない。
 私は二度とあんなことが起きないよう、危ないときはひとりで対処しないことを心に誓った。

「分かった。何かあったら頼るから」
「絶対ですよ」

 最後の最後まで念を押されて、やっと彼の部屋から出る。
 閉まる扉を見つめながら、私はやけにざわつく胸元を押さえた。

 ――ここまで心配してくれるのは幼馴染だから……だよね。

 それか、私が仮の恋人だから。体裁を守るためにも私を守っているのかも。

 そこに他意はないはずだ、と自分に言い聞かせ、勘違いしてはダメ、と自分を叱咤する。

「きっと、特別な意味なんてないもの……」

 ぽつりと呟いた声が誰もいない静かな廊下に溶けていく。

 彼に他意はないのだと自分で言い聞かせておきながら、なぜだか胸が痛くなった。小さな違和感がどんどん大きくなって、胸の傷口を広げる。

「……しっかりしなくちゃ」

 私はパシンと両頬を叩くと、いつもの持ち場に戻っていった。
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