次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
「あら、あなた。宮園さんよね?」
「え?」
「噂は聞いているわよ。なんでも達成さんの恋人とか」

 彼女が私の方に近付いてくる。すらりとした長い足で踏み出される一歩は自信に満ちていて、歩く姿すら美しかった。
 艶のある髪は綺麗に手入れされているのか、痛みもなく真っ直ぐだ。それに何より、瞳が綺麗だった。
 背が高いのもあり、目の前に立たれると迫力がある。

 私は自然と足を一歩引いてしまった。

「あなたも変な噂が立って大変ね。でも安心して、私が達成さんのフィアンセだから」
「は、はい……」
「それだけよ」

 紫苑寺さんは他のスタッフと話している達成さんのところへ向かうと、私に見せた鋭い視線とは裏腹に柔らかな視線を彼に向けた。

 ――完全に敵視されているわ……。

 同じ職場に恋人がいれば、彼女のようになるのも分かる。
 恋人よりもフィアンセの方が立場的には強い。親公認であればなおのことであるし、彼の身内が認めた相手であることを踏まえれば、彼女の家もそれなりに格式ある家柄なのだろう。

 冷静に考えて、大企業の御曹司が一般人の私と恋愛をすることはあっても、結婚まで踏み切るだろうか。
 本人が良いと言っても、周りは許さないだろう。
 結婚だけは利害が一致する家柄の女性か、同じ教育、金銭感覚を持った女性を、と思うだろう。

 だから、私は完全にお役御免だった。

「……宮園さん。二二三六室のお客様から連絡が来ております」

 インカムから連絡を受ける。私は返事をすると、足早にカンファレンスルームを抜けた。
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