次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
 なんだかんだもう終業時刻だ。このお茶を楽しんだらおいとましなければ。
 達成さんも疲れているようだし、長居しない方がいいだろう。

 そう思って、飲み終わったカップを持って立ち上がろうとしたら、その手を制された。

「達成さん?」
「まだ、このまま」
「でも……疲れてるでしょ? ゆっくり休んだほうが……」
「確かに疲れてはいる。……けど、柚希と過ごせる時間のほうが大事だ。むしろ、一緒にいた方が疲れが取れる」
「……それ、紫苑寺さんに言ったら怒られるよ」
「なぜ?」

 紫苑寺さんの名前を出した瞬間、達成さんの眉がぴくりと動く。
 彼はカップを置くと、私の肩を乱暴に押した。

「わっ!」
「彼女は俺のフィアンセなんかじゃない。祖父と彼女が勝手に言ってるだけだ。俺がフィアンセにしたいのは……」

 つるりと頬を撫でられる。
 愛しさを煮詰めたような目で見られると、息の仕方を忘れてしまう。はくりと吐き出した息が、やけに熱を帯びていた。

「柚希、俺は本気だよ」
「本気、って……?」
「俺の恋人は柚希だ」
「それは、仮の、でしょう……?」

 期待しちゃいけない。浮かれちゃいけない。

 そう自分に言い聞かせて、はたと気付いた。
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