愛とプライドとバベルの塔

それから、わたしは高井さんに付き添ってもらいながら、レジ打ちの練習をした。

今のレジは簡単になっていて、JANと呼ばれるバーコードを読み取り、合計金額が出て、お客様からお預かりしたお金を機械に通し、出てきたお釣りをレシートを添えてお返しするだけ。

それでも、ポイントカードやら、クレジットカード払いやら、商品券やら、クーポンやら、、、レジだけでも覚えることはたくさんある。

「レジ打ちの経験はあるの?」

レジでお客様が来るのを待っている間、高井さんが訊いてくれた。

「今までは事務員と看護助手しか経験がなくて。」
「看護助手?!凄いわね!」
「あ、でも、ただの助手なんで!助手は資格なくても出来るんですよ!」
「へぇ〜、そうなのぉ。」

高井さんは柔らかい口調でまったりした雰囲気で、30歳にもなるわたしからしたら、優しいお母さんのような印象だった。

その間、レジカウンター裏にあるダイニング売場の方では、話し声が聞こえてくる。

この甲高いブリっ子声は、多分南田さんだ。

「あのぉ、南田さんって、ここでは偉い人なんですか?」

わたしが小声でそう訊くと、高井さんは苦笑いを浮かべ「普通のフルタイムの契約社員だよ。南田さんはダイニング担当してるの。」と言った。

どうやら、高井さんの話によると、HFの担当商品は、寝具、家具、ダイニング、掃除用品、タオル、スリッパらしい。

でもHFは人数が居る為、一番勤続年数が長い南田さんはダイニング担当、高井さんは寝具と家具、掃除用品は村尾さんというわたしと同じ年齢の方が担当、タオルとスリッパは細村さんというが40代後半のサバサバした女性が担当しているらしく、その日はお休みで挨拶が出来なかった。

ということは、レジカウンター裏で仕事もせずにお喋りをしているのは、南田さんと村尾さんかぁ。

その二人はきっと仲良いんだろうなぁ。

そう思っていると、高井さんが「何かわからないことがあったら訊いてね。わたしも昔はステーショナリー担当してたことあるから文房具のことなら少し分かるから。まぁ、あの頃より売場も広くなったし、担当部門も増えたから分からないことの方が多いけどね。」と言い微笑んだ。

「はい、ありがとうございます!」

高井さんは優しくて良い人だ。

わたしはその日、売場のことよりもレジ打ちの練習に専念したのだった。



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