キスしたら、彼の本音がうるさい。
◇神谷瑛翔◇

本当は、言いたくてたまらないんだ。

あいつのことが、好きで好きで、どうしようもない。

寝癖のまま出てきた日も、
拗ねたみたいに黙り込んでる日も、
全部が、いちいち胸に刺さってくる。

笑ったら、心臓ごと持っていかれるし、
泣かれたら、自分のせいじゃないかって思ってしまう。

──だから、怖いんだよ。

この気持ちを、言葉にしてしまったら、
あいつが消えてしまいそうで。

あいつは、今、俺のとなりにいてくれてる。

でも、それはまだ、言葉にしないからだって、どこかで思ってる。

キスならできる。

何度だって。

あのやわらかい唇に触れるたび、
名前もない関係のくせに、
“ちゃんと手に入れた”気がしてしまう。

……でも、手に入れてなんかないんだ。

触れるだけで精一杯で、
抱き寄せる腕は、どこかいつも怯えてる。

これ以上近づいたら、
きっと、俺はあいつの全部を欲しがってしまうから。

その先を知ってしまったら、
いまの“微妙なぬくもり”じゃ耐えられなくなるから。

だから俺は、ぎりぎりで止まる。

口にする代わりに、キスをする。

抱きしめる代わりに、手を繋ぐ。

そうして、好きの全部を、遠回しに渡してる。

でも、あいつはそれを受け取って、
それでも足りないって、
少しずつ、遠くを見てる気がするんだ。

──怖いよ。

こんなにも好きなのに、
どうしてこんなに、苦しいんだろう。

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