キスしたら、彼の本音がうるさい。
店内のカフェスペースは、午後の陽がやわらかく差し込んでいた。
直央はカウンターで買ったパンとコーヒーを手に、当然のように席をとって、私も少しだけ横に腰を下ろした。
「シナモンロール、やっぱり美味しいな。月菜ちゃんのおすすめ、信じて正解だった」
「そんなの……パンが美味しいだけだよ」
「いや、それもあるけど……君が勧めてくれると、なんか倍で美味しく感じるんだよな」
あいかわらず、さらっと言葉が出てくる。
照れてごまかす私を見つめながら、彼は湯気の立ちのぼるカップにそっと口をつけたあと、静かに言った。
「……なんかさ、月菜ちゃんって、昔から可愛かったけど――」
ふいに、顔を上げた。
「今日、会って思った。……もっと、可愛くなってる。いや、綺麗になったよ」
「え……」
あまりにも自然に言われて、言葉がつまった。
「見た目の話だけじゃないよ。たぶん、周りもみんな思ってるだろうけど……
君の魅力って、そういうとこだけじゃないからさ」
彼のまなざしは、まっすぐで。
でも、どこか懐かしさを含んだ優しさで満ちていた。
「昔からそうだった。気配り上手で、でも無理して笑うとこもあって……
ちゃんと人の話を聞いて、覚えてるのに、それを自分の手柄にしないところとか。
……ほんと、すごいよね」
──どうしてそんなに、さらっと、まっすぐ言えるの。
鼓動が、さっきまでの静けさから一転して、熱を帯びてくる。
なんでもないような会話の中に、私をちゃんと見てくれていた人の言葉があった。
それが、ずっと“言葉のない優しさ”に囲まれていた私の心に、するすると入り込んでくる。
「ごめん、急に。迷惑だった?」
「……ううん。ちがう。ちがうけど……」
ちょっと、反則だよ。
そんなふうに、言葉にしてくれるなんて。