キスしたら、彼の本音がうるさい。
食器を洗い終えて、暖房の効いた部屋から一歩外に出ると、
夜の冷たい空気が頬を撫でた。
少しだけ空を見上げる。
雲の切れ間から、星がひとつだけ、静かに光っていた。
「送ってくよ」
ドアに鍵をかけた瑛翔が、何気ない声でそう言った。
その声に、胸の奥がまたじんわりあたたかくなる。
「……ありがとう」
街灯の下を並んで歩く。
昼間ほど人もいない夜道。
ふたりの足音だけが、カツン、コツンと交互に響いた。
言葉は少なくても、不思議と気まずさはなかった。
沈黙さえ、心地いいと思えた。
そんなふうに思えるようになった自分が、ちょっとだけ嬉しかった。
しばらく歩いたところで、
瑛翔の指先が、私の手にふれる。
そっと、でも迷いなく。
絡められた指が、あたたかかった。
握り返すと、彼がこちらを見て、ふっと笑った。
「ねえ……」
ふいに、言葉が漏れる。
「ん?」
「この冬が終わっても、隣にいてくれる?」
立ち止まることもできなくて、
歩きながら、それだけを呟いた。
彼は少しだけ驚いた顔をして、それからまっすぐ前を見たまま、小さく頷いた。
「うん。
来年の冬も、再来年も、……その先も。
俺がとなりにいていいなら、ずっと」
また、胸がいっぱいになる。
いちばん欲しかったのは、特別な言葉じゃなかった。
こんなふうに、未来の話をしてくれる声だった。
ふたりはそのまま歩き続けた。
夜道をゆっくりと、言葉を選びながら。
そして、彼の声が、もう一度落ち着いたトーンで届いた。
「……ていうか、ちゃんと言った方がいいかな」
「え?」
横を向くと、瑛翔はほんの少しだけ照れて笑った。
「月菜。……俺と、付き合ってくれませんか」
一瞬、胸が跳ねた。
けれど、すぐに微笑みがこぼれた。
「……ふふ、言わなくても、もう付き合ってると思ってた」
「俺は、ちゃんと聞きたかったんだよ。……ちゃんと、はじめたかったから」
その言葉が、あたたかく胸の奥にしみていく。
「……じゃあ、はい。よろしくお願いします」
言葉にしたら、なんだか照れくさくて、
でもそれ以上に、嬉しかった。
彼の手がもう一度ぎゅっと強くなって、
指先が私の指に絡むように重なった。
「好きだよ、月菜」
その言葉が、すぐそばで聞こえた。
歩いているのに、足が止まったような気がした。
彼の手をぎゅっと握り返す。
そのあたたかさが、胸に広がっていく。
ふたりで並んで歩く夜道。
何も起きていないのに、たまらなく幸せだった。
ふと、彼の肩に寄りかかる。
「ねえ、さっきの……もう一回、言って」
「どれ?」
「“好きだよ”ってやつ」
「……言わない」
「なんでっ」
「……何回でも言うから、そんなの、ここで言わなくてもいいでしょ」
照れたような声に、思わず吹き出した。
その笑い声に、彼の指先がもう一度、きゅっと重なる。
この手を、もう二度と離したくないと思った。
静かな冬の夜。
灯りに照らされた歩道。
それだけで、じゅうぶんすぎるくらいだった。
夜の冷たい空気が頬を撫でた。
少しだけ空を見上げる。
雲の切れ間から、星がひとつだけ、静かに光っていた。
「送ってくよ」
ドアに鍵をかけた瑛翔が、何気ない声でそう言った。
その声に、胸の奥がまたじんわりあたたかくなる。
「……ありがとう」
街灯の下を並んで歩く。
昼間ほど人もいない夜道。
ふたりの足音だけが、カツン、コツンと交互に響いた。
言葉は少なくても、不思議と気まずさはなかった。
沈黙さえ、心地いいと思えた。
そんなふうに思えるようになった自分が、ちょっとだけ嬉しかった。
しばらく歩いたところで、
瑛翔の指先が、私の手にふれる。
そっと、でも迷いなく。
絡められた指が、あたたかかった。
握り返すと、彼がこちらを見て、ふっと笑った。
「ねえ……」
ふいに、言葉が漏れる。
「ん?」
「この冬が終わっても、隣にいてくれる?」
立ち止まることもできなくて、
歩きながら、それだけを呟いた。
彼は少しだけ驚いた顔をして、それからまっすぐ前を見たまま、小さく頷いた。
「うん。
来年の冬も、再来年も、……その先も。
俺がとなりにいていいなら、ずっと」
また、胸がいっぱいになる。
いちばん欲しかったのは、特別な言葉じゃなかった。
こんなふうに、未来の話をしてくれる声だった。
ふたりはそのまま歩き続けた。
夜道をゆっくりと、言葉を選びながら。
そして、彼の声が、もう一度落ち着いたトーンで届いた。
「……ていうか、ちゃんと言った方がいいかな」
「え?」
横を向くと、瑛翔はほんの少しだけ照れて笑った。
「月菜。……俺と、付き合ってくれませんか」
一瞬、胸が跳ねた。
けれど、すぐに微笑みがこぼれた。
「……ふふ、言わなくても、もう付き合ってると思ってた」
「俺は、ちゃんと聞きたかったんだよ。……ちゃんと、はじめたかったから」
その言葉が、あたたかく胸の奥にしみていく。
「……じゃあ、はい。よろしくお願いします」
言葉にしたら、なんだか照れくさくて、
でもそれ以上に、嬉しかった。
彼の手がもう一度ぎゅっと強くなって、
指先が私の指に絡むように重なった。
「好きだよ、月菜」
その言葉が、すぐそばで聞こえた。
歩いているのに、足が止まったような気がした。
彼の手をぎゅっと握り返す。
そのあたたかさが、胸に広がっていく。
ふたりで並んで歩く夜道。
何も起きていないのに、たまらなく幸せだった。
ふと、彼の肩に寄りかかる。
「ねえ、さっきの……もう一回、言って」
「どれ?」
「“好きだよ”ってやつ」
「……言わない」
「なんでっ」
「……何回でも言うから、そんなの、ここで言わなくてもいいでしょ」
照れたような声に、思わず吹き出した。
その笑い声に、彼の指先がもう一度、きゅっと重なる。
この手を、もう二度と離したくないと思った。
静かな冬の夜。
灯りに照らされた歩道。
それだけで、じゅうぶんすぎるくらいだった。