隣の部署の佐藤さんには秘密がある
 ファッションショーが終わっても会場の熱気は冷めなかった。KOTAのパフォーマンスも着こなしも、着用したあのくまのパジャマもすべてが衝撃的で、会場は完全にKOTAに飲まれていた。

「こんなところで本気を出さないで欲しいわ。さきちゃん、次はね……」

 あかねさんが息を飲むのがわかった。

「さきちゃん、顔直してきな。」
「はい……すみません……」

 私はのそのそと会場を出て化粧室へ向かった。いつもより濃いめに描いたから酷いことになっているだろうとは思ったが、想像以上に酷い崩れ方をしている。私はため息をつきながらメイクを直した。

(もう帰ろうかな……)

 レセプションは楽しいし、サンチェス=ドマーニに囲まれる空間は好きだけど、佐藤さんと住む世界が違うことを見せつけられてしまう。佐藤さんはモデルのKOTAで、姉はAkane、兄は社長の龍司さんだ。考えれば考えるほど、佐藤さんは遠くにいる。早く帰って夢から覚めた方がいいのかもしれない。

(でもノベルティは欲しい……)

 それに、この格好では自力で帰ることができない。私はあかねさんに相談するために化粧室を出た。
< 110 / 120 >

この作品をシェア

pagetop