隣の部署の佐藤さんには秘密がある

30.新しい香水

 エレベーターには誰も乗っていない。隣にいるのは佐藤さんだけど、バッチバチに決まっているKOTAだ。私は佐藤さんを見ないようにしてエレベーターを降りた。

「じぃちゃんとも仲良いみたいだったけど、いつ話したの?」
「目の前でハンカチを落とされたんです。それが世界限定のピンクのハンカチで、その時に少し話しました。」

「それはじぃちゃんの常套手段だよ。気に入った女の子の前でわざとハンカチ落として拾わせてる。その後、コーヒー飲もうって言われなかった?」
「言われました。」
「その後プレゼントを贈って食事に誘うんだけど……まさか何かもらった?」
「えっと、これを頂いてしまいました。」

 私はサンチェス=ドマーニのコンパクトミラーを取り出した。

「これ、俺が欲しいって言ってもくれなかったのに!」
「佐藤さんは持っていないんですね。ふふふ。」
「あのさ、相手がじぃちゃんでもだめだからね。コーヒーだろうと食事だろうと誘われても行っちゃだめ。それは浮気だから。」

 言われてみればそうかもしれないけど、相談役のサンチェス=ドマーニ話は気になる。

「佐藤さんが一緒ならいいですか?」
「俺と?」
「世界限定のハンカチに、あのくまのパジャマも手に入れたのはおじいちゃんなんですよね?サンチェス=ドマーニの貴重な話を聞いてみたいです。」
「一緒ならいいか……俺も気になるし。」
「ぜひお願いします!」

 きっと幻のハンカチに並ぶレアな商品をいくつもお持ちなことだろう。それらをどのようにして手に入れたのか、どんな物が好きなのか話してみたい。水伊勢グループの相談役なんて気軽に話せる相手ではないけど、サンチェス=ドマーニ好きの仲間なのだから絶対に楽しいはずだ。

「きっとじぃちゃんが父さんに言ってくれたんだろうな、さきのこと。父さんが認めてくれるとは思わなかったよ。」
「婚約者は……いたんですか?」
「写真は見せられたけど全部断った。でも、何度も持ってくるんだ。無駄な作業だと思ったよ。磯山さんも大変だなぁって。」

 磯山さんはそういうこともやっていたのか。頭の中に乾いた笑みを浮かべる磯山さんの顔が浮かんだ。
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