隣の部署の佐藤さんには秘密がある
『今日は早く上がれそう!』

 休憩時間に送られてきたメッセージに手早く返信した。時間ができたらサンチェス=ドマーニのショップへ行こうと話していたことがようやく実現する。私は気合いを入れて仕事を終わらせた。会社の前で待っていると、すぐに佐藤さんがやってきた。

「お待たせ!行こう?」
「はい!」

 楽しみで仕方ない。レセプションの時のファッションショーはすごく楽しかったから、あの時のようにいろんな話をしたい。浮かれた気分で歩いていると……

「宮島さん、そろそろ名前で呼んでも良い?」
「いいですよ。」
「ありがとう……さき♪」

 途端にレセプションの日のことが頭をよぎった。あの時も名前を呼ばれた気がする……けど思い出してはいけない。私はそれ以上考えるのをやめた。

「俺のことも名前で呼んで良いからね。」
「それは彼女になったら考えます。」
「ふふふ、楽しみだな~」

 ショップに入ると三上さんが眩しい笑顔で出迎えてくれた。いつもはすぐに話しかけてくれるけど、今日はにっこり微笑んでどこかへ消えた。

「さきは欲しいものあるの?」
「ありますよ。」
「どれ?」

 これは買ってくれそうな雰囲気だ。でも油断してはならない。まだペンダントの支払いが終わっていない。

「佐藤さんは何かあるんですか?」
「俺は、ショーに出たシャツが出るのを待ってるんだ。あの感じに似たやつあったでしょ?」
「襟に刺繍があるやつですね!あれは素敵でしたね~2年前の冬に出たジャケットの襟と同じですよね。」
「そう!それと同じだから揃えたいんだよ。さきは?」

「私も刺繍の入ったブラウスを狙っていまして、あの上の段にあるやつです。」
「いいね!すみません。あの上の段にある……」

 佐藤さんは店員さんに商品を頼もうとする。油断ならない。

「買わなくていいです。自分で買いますから!」
「えー、じゃ、靴とバッグは?持ってないんだよね?」
「そちらも結構です。」

「それじゃ来た意味がないじゃん。」
「ありますよ。私は佐藤さんと一緒に見ることができて楽しいですよ?」

 佐藤さんは何も買わずに店内をただ物色するなんてしないのかもしれない。でもサンチェス=ドマーニは見ているだけで癒される。それに今日は佐藤さんと一緒なのだから、レセプションのファッションショーを見た時と同じくらい楽しい。
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