隣の部署の佐藤さんには秘密がある

12.休日デート

15時45分──

 待ち合わせの駅に到着した私は、改札を出て辺りを見回した。佐藤さんらしい人は見当たらない。

「まだ来てないか……」

 私は時計のある花壇へ向かった。ここからなら佐藤さんがどこから来ても気づけるはずだ。

「いえ、人を待ってるんで。時間はないです。いや、無理です。」

 声のする方を見ると、逆ナンの猛攻を受けている人がいた。断ってるのにしつこく迫られて大変そうだ。

(佐藤さんみたいだな。)

 他人事のように見ていると、その人は勢いよくこちらに向かって来た。

「気づいたなら助けてよ!早く行こう?」

 逆ナンされていた人は佐藤さんだったらしい。佐藤さんは私の手を握ってズンズン歩いていく。顔は見えないけどご機嫌斜めだ。

「今日はさきとしか話したくなかったのに!なんで話しかけてくるんだよ!こんな格好なのに!」

 佐藤さんはシンプルな装いだが驚くほどおしゃれだ。前髪が多くて顔は見えないけど、イケメンが透けて見える。だから声をかけられたのだ。どうやらサンチェス=ドマーニだけが佐藤さんを変身させるわけではないようだ。もはや会社で完全に隠せていることが特別なのかもしれない。
 
「仕方ないですよ。すごくカッコいいですから。」
「なに?俺、口説かれてる?」
「違います。」
「さきも可愛いね。いつも可愛いけど。今も可愛い、会社でも可愛い。レセプションでも可愛い!」

 顔が熱い。

「あ、やっぱりそのイヤリングだ。これ見てよ。お揃いだよ。」

 佐藤さんは繋いでいる手と反対の手を私に見せた。佐藤さんのブレスレットには、私のイヤリングと同じ花のモチーフがついている。佐藤さんは分厚い前髪の奥で微笑んでいるようだが、私は眉間に皺を寄せた。

「佐藤さんだったんですね、それ買った人!」

 花のモチーフのアクセサリーは、ネックレス、イヤリング、ブレスレットの3種類あった。花のモチーフに一目惚れして、全部欲しいと思ったけれど、ネックレスは既に売り切れていて他の店舗にもなかった。イヤリングとブレスレットだけでも揃えたいと思ったが、予算の壁が高くて買えなかった。あの時の悔しさは今も忘れることができない。

「はい、あげる。」

 佐藤さんはしれっと私の前にブレスレットを差し出した。

「大丈夫ですぅー、私はこのブレスレットのおかげで『買わないと無くなる』という教訓を得ましたからー」
「でも欲しかったんでしょ?」
「イヤリングは買えたので大丈夫です。」

 同情でもらうのはなんか悔しい。それに……

「今はお揃いの方がいいですから。」

 恥ずかしくなって言葉尻が小さくなってしまった。
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