隣の部署の佐藤さんには秘密がある
 本当はもっとちゃんと髪型を決めたかったし、メイクも念入りにしたかったが時間がなかった。全ては自分の無難なワードローブのせいだ。せっかく佐藤さんとのデートなのに何もかもが普通だ。

「ちゃんとした服を買おう。」

 サンチェス=ドマーニ以外でデートに着られる服を準備しておかなければと心に決めてBARの方へ進んで行くと……

「お姉さん、いかがっすか?」
(げ。)

 いつも捕まることないのに、急いでいる時に限ってキャッチに捕まってしまうものだ。

「急いでいるんで……」
「ちょっとだけでいいっす。安いっすよ。」
「……」
「お姉さん、少しだけ。少しだけでいいんで。」

 よりによってしつこい奴だ。駅から離れてもやたら着いてくる。こいつの店がBARと同じ方向にあるのだろうか。このままだとBARへこいつを連れて行くことになってしまう。まずはこいつを巻かなければ……

「俺の彼女に何か用?」

 長身の男性が目の前に現れてキャッチはあっという間に消えた。助かった。

「ありがとうございました。」

 頭を下げて立ち去ろうとすると、男性から腕を掴まれた。

「ひぃっ!」
「俺だよ、さき!」

 男性が帽子を取ると、見慣れた大量の前髪が現れた。

「佐藤さん!?」
「迎えに来て良かった。土日はあーゆー奴多いんだよね。」

 佐藤さんは私の手を握った。
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