隣の部署の佐藤さんには秘密がある
「いらっしゃいませ、宮島さん。贈り物ですか?」
「今日は見に来ただけなんです。あはは。」

 いつも日曜日に来ないのに来店し、以前佐藤さんへの贈り物を選んでもらったから、三上さんは贈り物選びだと即座に変換したらしい。恥ずかしい。

「宮島さん、これ見てください!再販したんですよ!」

 三上さんはメンズ売り場に並んでいるショッキングピンクのスーツを取り出して私に見せた。このスーツがはじめて店頭に出た時は、呆気に取られていつまでも店頭のトルソーを見ていた。

「ここが変わったんです。」
「本当だ!キラキラしてる!」

 あの時は、こんなスーツを着こなす人がどこにいるのかと思ったが、サンチェス=ドマーニのレセプションにはたくさんいた。それに、あの佐藤さんなら絶対に似合う。

「それから、昨日これが入ったんです!」

 三上さんがテキパキと取り出したのは、緑色のハートがついているストラップだった。

「ストラップははじめて出たんですよ。」
「へ、へぇ~カワイイデスネ……」

 三上さんはそれとなく、2つのストラップを並べた。

「このストラップは、2つで1つなんです!ここを見てください。ハートを2つ合わせると四葉のクローバーになるんです。」
「へぇ~」

「こちらは、アクセサリーに比べて価格がお手頃で……」
「ちなみにいくらなんですか?」
「こちらです。」

 三上さんはストラップについているタグを見せた。ペンダントやイヤリングに比べたら安いと思えてしまう。しかも今の予算で買えてしまう。2つ買えてしまう。

「いかが致しますか?」
「えっと……」

 サンチェス=ドマーニで初めて出たストラップ。しかもハートを合わせるとクローバーになる。

「お取り置きしましょうか。」
「か……います。」
「1つは贈り物でよろしいですか?」
「……お願いします。」

 私は三上さんの手の上で踊らされる人形。三上様という主人には逆らえない。

 ショップを出た私の心は、信じられないほど穏やかだった。新発売のストラップを買えた。しかも佐藤さんとお揃い。急な出費になってしまったが、帳消しにできるほど満たされている。

『クロードのショップへ行ってきました!ものすごく混んでましたよ!』

 帰宅した私は、佐藤さんにクロードへ行った報告をして、買ってきたストラップを広げた。

「うぉあぁぁ!家で見るとすごい!」

 薄暗い一人暮らしの部屋は、サンチェス=ドマーニのストラップのおかげで輝いて見える。私はストラップをいつまでも眺めていた。
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