二人で恋を始めませんか?
「えーっと、茉莉花ちゃん?」
「しっ、黙ってて」
「ものすごい真剣な顔してますけど?」
「だから邪魔しないでってば」

壁の時計の秒針を見ながら、茉莉花は優樹をけん制する。
時刻は23時59分を回っていた。
茉莉花はじっと秒針の動きを凝視する。
カチッとかすかな音がして、長針と短針と秒針が一番上で重なった。

「優くん、お誕生日おめでとう!」

パッと笑顔を咲かせて、茉莉花が優樹に抱きつく。

「ありがとう。茉莉花の笑顔が何よりのプレゼントだ」

さっきまで時計を睨んでいた茉莉花の変わりように、優樹はホッとしながら苦笑いした。

「早速ケーキ食べよう! 張り切って作ったの」

茉莉花は冷蔵庫から、ティラミス風味のホールケーキを取り出す。

「おお、すごいな。これ、ほんとに手作り?」
「うん。お料理教室の先生に教わったの。優くん、生クリーム苦手だから、こういうケーキがいいんじゃないかと思って。お酒の味もしっかり楽しめるよ」
「へえ、美味しそう」

ロウソクを立てて火を灯し、ハッピーバースデーと歌ってから優樹に吹き消してもらう。
切り分けたケーキをひと口食べると、優樹は感激の面持ちで茉莉花に頷いた。

「美味しいな、これ。食べたことない味わい深さ。ちょっとビターでワインにも合いそう」
「ふふ、よかった。来年も張り切って考えるね」
「ああ、楽しみにしてる」

笑顔の茉莉花に目を細めてから、優樹は切なげに口を開く。

「茉莉花、誕生日プレゼントもらってもいい?」
「うん、ちょっと待ってね。今持って来る」
「違う、茉莉花がほしい」
「え……」

振り返った茉莉花を抱きしめ、優樹はそのままソファに押し倒した。

「茉莉花、どんなに言葉にしても言い尽くせない。愛してる、心から」
「優くん……。私もです。切なくて涙が溢れるほど、あなたのことが好き」

深いキスを交わしながら深く繋がる。
言葉に出来ない想いは、身体で伝え合う。
二人は溶けるほど抱きしめ合い、愛を注ぎ合っていた。
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