二人で恋を始めませんか?
Happy Beginning
年末年始は優樹が上京して、二人でゆっくり過ごした。
結婚式の準備のほかに、新居選びも本腰を入れる。
優樹は3月の最後の週末に東京に引っ越して来ることが決まった。

二人でいくつかのモデルルームを見て回り、決めたのはキッチンとリビングが広く、ガーデニングが楽しめる大きなバルコニーもある新築マンション。
紫陽花の『万華鏡』や、優樹が持ち帰るジャスミンの『茉莉花』も育てるつもりだった。

家具や家電も選び、配送や引っ越しの手続きをしていると、あっという間に3月になっていた。

「はやーい。まさかもう来週だなんて」

優樹が関西を引き揚げて帰って来る日が、1週間後に迫っていた。
だが、ひと足早く新居に入居した茉莉花は、まだ荷物の整理に追われている。

「お部屋の中、とっ散らかったままなんです。かろうじて生活してるけど」
『いいよ。俺が帰ったらやるから』
「せめてあと2週間あればなあ」
『ちょっと、茉莉花? なんだか、そんなに早く帰って来るな、みたいに聞こえるけど?』
「まあ、仕方ないですねー」
『茉莉花!?』
「あはは! 嘘です。早く帰って来てね、優くん」
『ああ、待ち切れないよ』

こうやって電話をする生活もあとわずか。
そう思うと名残惜しくさえある。

「そうそう、優くん。4月に本社に戻って来た日に、部署のみんなが、おかえりなさいの歓迎会を開いてくれるそうです。ぜひ来てくださいって」
『そうなのか? わざわざ俺の為に、なんか悪いな』
「ほら、4月から華恵さんも育休明けで戻って来るでしょう? それも合わせて」
『ああ、なるほど。分かった、楽しみにしてる』
「はい、伝えておきますね」

優樹は4月から本社で、異例の若さで本部長に就任することになっている。
だが現場での仕事にも携わりたいと、オフィスは変わらず茉莉花たちと同じフロアだった。

小澤や沙和を初め部署の皆が、優樹と華恵が戻って来るのを心待ちにしている。
もちろん茉莉花も。

そして遂に、優樹の引っ越しの日がやって来た。
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