二人で恋を始めませんか?
「わあ、なんて綺麗。星空が下りてきたみたい」

クリスマスの夜。
ホテルから神戸の夜景を見下ろし、茉莉花が目を輝かせた。

「素敵ね。私、関西がすっかり気に入っちゃった。優くんとの思い出がいっぱい詰まった、第二のふるさとみたい」
「そうだな、俺もだ」
「優くんが東京に戻って来ても、時々遊びに来たいな」
「確かに。でもあと3ヶ月あるから、思う存分満喫しよう。行きたいところ、考えておいて」
「うん! カウントダウンの予定表作っちゃう」

二人で顔を見合わせて笑う。

こんなふうに笑い合える日が来るなんて、と茉莉花は感慨深くなった。
2月に優樹から転勤すると告げられて、目の前が真っ暗になったあの時。
悩んで悩んで、悩み抜いて出した答え。
その意志を貫く為に、涙は見せないと誓った見送りの日。

「優くん、私ね」

夜景に見とれながら、茉莉花は静かに語る。

「離れていた間、自分が成長出来たような気がして嬉しいの。一人でも踏ん張ってみせる、そう決めたけど、心のどこかで小さな不安を抱えたままだった。それに気づかないフリをして、平気だって言い聞かせてたんだなって、今は思う。だからこそ、今こんなにも幸せを感じられる。優くんと一緒にいられることが、私にとって何よりの幸せなんだって」
「茉莉花……」

優樹は後ろから茉莉花をそっと抱きしめた。

「最初は俺、どうにかして茉莉花を悲しませないようにって、そればかり考えてた。だけど茉莉花の選んだ道を、そこからの茉莉花の歩みを、俺は心から尊敬する。守りたい存在だった茉莉花が、いつの間にか俺を支えて、高みへと引き上げてくれた。茉莉花、俺はこの先もずっと茉莉花への感謝の気持ちを忘れない。離れていた間の茉莉花の気持ちも。不安や寂しさや、そしてそれを乗り越えた強さ。俺にくれた優しさと温かさ。俺を信じて真っ直ぐに届けてくれた愛情。茉莉花のその全てを、俺は決して忘れない。今度は俺の番だ。茉莉花をどんな時もそばで守り、必ず幸せにすると誓う」
「優くん……、ありがとう」

茉莉花は振り返ると、優樹の胸に頬を寄せる。

「私たち、すごいね。会えない日々を愛おしい日々に変えてみせたんだから。離れていても、絆を深められたんだから。遠くにいても、お互いの存在を近くに感じられたんだから。そしてどんな時も、お互いを信じ抜いてみせたんだから」
「ああ。俺たちなら、この先なにがあっても乗り越えられる」
「無敵のカップルだね」
「そうだな。最強で最愛の夫婦になろう」
「はい」

静かに愛を語り合うクリスマス。
二人で乗り越え、手に入れた強さと固い絆を胸に、茉莉花と優樹は幸せを噛みしめていた。
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