二人で恋を始めませんか?
きっと彼女は……
(やっぱり、そうだったのかも……)

受付のテーブルで、優樹は組んだ手に視線を落として考えていた。

聞こえてくる賑やかな声と明るい音楽。
その中にいるであろう茉莉花のことを想像した。

(きっと複雑な気持ちだろうな。小澤の幸せそうな姿を見るのは)

小澤に声をかけられるたびに、緊張の面持ちで頬を赤らめていた茉莉花。
もしや?と思いつつ、優くんという恋人がいるのだからと打ち消してきたが、その恋人が架空の人物であったと分かった以上、もはや疑う余地はなかった。

(彼女は……、小澤が好きだったんだ)

そう確信した途端、色々なことがストンと腑に落ちた。

(だからだ、彼女が恋人がいるフリをしたのは。小澤が小林とつき合っているのを知っていたから、自分の気持ちを悟られない為に)

二人の仲を引き裂こうなんて微塵も思わず、逆に自分が邪魔をしてはいけないと思ったのだろう。

(そういう子だ、清水さんは。演技だと疑われないように、真剣にメモまで作って……。不器用で真っ直ぐな子。自分の気持ちを押し殺してまで、好きな人の幸せを願う。健気で優しい心の持ち主)

そう思った途端、ギュッと胸が締めつけられた。

同じ職場で二人を見るのは、どんなに辛い毎日だっただろう。
その上、恋人がいる幸せな自分を演じなければいけなかったのだ。

『そこまでして彼がいるフリをしたのはどうして?』と聞いた時も、『周りはみんな彼氏がいるので羨ましくて』と答えていた。
それですら、胸が傷んだに違いない。

どうやって今まで気持ちを保ってきたのだろう。
一人で寂しさを抱えて、きっともう、何年も……。

(なんとかして彼女の力になりたい。傷ついた心を少しでも救ってやりたい。どうすれば……)

その時、遅刻の3人が現れて優樹は顔を上げる。
全員の受付を済ませると、テーブルの上を片づけて立ち上がった。
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