二人で恋を始めませんか?
挨拶をしてからカフェを出ると、車に戻ってオーベルジュに向かう。
チェックインを済ませ、部屋に案内された。

「前回のお部屋とは少し違いますね。ベッドルームが広くて、景色もいいです」
「そうだな。少し休憩したら、散策に出かけようか」
「はい!」

部屋の窓からオーベルジュの庭を眺めつつコーヒーを飲むと、二人で手を繋いで名所を巡る。

まずは『竹の寺』という別名を持つ、竹林の庭園が見事な報国寺へ。
木漏れ日の中をひんやりとした空気を胸一杯に吸いこんで、2千本の竹と草花を楽しんだ。

小町通りで抹茶のスイーツを食べ、夕暮れの由比ヶ浜をのんびりと歩く。

「おっ、桜貝」
「え、ほんとだ。部長、すっかり桜貝名人ですね」
「ははっ、なんだそれ」

優樹の笑顔に茉莉花も微笑む。

(部長ってこんなふうに笑ったりするんだな)

自分しか知らない一面。
自分にだけ見せてくれる顔。
茉莉花はそのことが嬉しかった。

日が沈む頃、鶴岡八幡宮を訪れる。

「ぼんぼり祭ですって。綺麗ですね」
「ああ、風情があって幻想的だな」

ちょうど巫女さんによる献灯が行われているところで、境内を照らす400基ほどのぼんぼりに、うっとりと酔いしれた。

「蓮の花も見てみたかったな」
「それなら明日の朝、もう一度来よう」
「本当に? 楽しみ! あとね、いつか流鏑馬も見てみたいんです」
「へえ、俺も見たい。確か、毎年9月に開催されてるはずだ。一緒に見に来よう」
「はい!」

今この瞬間も楽しいのに、どんどん楽しみが増える。
茉莉花は幸せを感じながら、繋いだ優樹の大きな手をギュッと握りしめていた。
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