餌に恋した蜘蛛の話
それから蜘蛛は蝶のために、毎日花の蜜や樹液を取りに行った。蝶は、太らされ食われるのが嫌だからと、最初は蜘蛛が持ってきた食事を食べようとしなかった。けど空腹に耐えきれず、蝶は渋々、蜘蛛が持ってきた食事を食べるようになった。
ただ……
「……ねえ、あんたは食べないの?」
「ん?」
「あんた、朝露しか飲んでないでしょ?」
蜘蛛は蝶が糸に引っ掛かって以来、何日も朝露以外のものを口にしていなかった。蝶に『最低』と言われたことを気にして、生き物を食べることをやめたのだ。
「俺のことはいいんだよ。気にするな」
「いや、気にするわよ。あんたが死んだら、身動きできない私も死んじゃうんだもの。だから、あんたも何か食べなさいよ!」
「……」
蜘蛛は、手に持っている樹液の雫を見てぐうぅっと腹を鳴らした。できることなら、樹液でもいいから腹に入れたかった。けど……
「おっ、俺はいらん!とにかくお前はしっかり食え!」
そう言って蜘蛛は、蝶の口元に樹液の雫を近づけた。蝶は怪訝な顔で蜘蛛を見つめると、雫を静かに飲み始めた。
蜘蛛は今まで、巣にくっついた虫や小鳥を食べて生きてきた。だから、花の蜜や樹液の探し方や取り方を知らなかった。毎日必死に花の蜜や樹液を探すが、1日かけて蝶の食事分ほどしか取れなかった。