餌に恋した蜘蛛の話
そんな生活が続き、二週間が経った頃だった。
「……あんた、顔色わるいわよ。大丈夫なの?」
「……これくらい、何ともないさ。じゃ、メシ探してくるか…ら……っ」
蜘蛛が蜜を探しに行こうとした時だった。蜘蛛は蝶の目の前で倒れたのだ。
「ちょ!全然大丈夫じゃないじゃない!ほらも~……ご飯食べないからよ!」
「う……」
八つの目がぼやける。蝶の声がくぐもっててはっきり聞こえない。体に……力が入らない。蜘蛛は自身の『死』を覚悟した。
すると蜘蛛は、よろよろと体を起こしそして──
「……え?ちょっ……」
手を震えさせながら、蝶に絡まる糸をほどいた。
「……行け」
「……え?」
「……俺はもう、長くない。だからもう、お前のことを逃がす」
「……いいの?」
蜘蛛は「ああ……」と、こくりと静かに頷いた。
「……すまなかった、怖い思いをさせて。すまなかった……こんなところに、お前を──……君のことを長く縛りつけてしまって」
蜘蛛は、虫の息でそう言った。
「……ねえ、何で私のことを食べないの?お腹空いてるんでしょ?だったら食べればいいじゃない!何で……何で?」
蝶はそう言いながら、横たわる蜘蛛の傍に座りそして──……ぽろぽろと涙を溢した。
蜘蛛を見下ろす蝶。美しい漆黒色の瞳からぽろぽろと零れる雫が、蜘蛛の頬にいくつも伝った。蜘蛛は、蝶が自身のために泣いてくれてるんだと思うと……とても嬉しかった。