餌に恋した蜘蛛の話



「恥ずかしい話……俺さ、どうやら君に……恋……したみたいでさ。だから、君のことをどうにかしてでも傍に置いていたくて……それで……」

 蜘蛛は手を震えさせながら伸ばし、蝶の頬に手を添えた。蝶は頬に触れたその蜘蛛の手に、そっと触れた。

「……行ってくれ。俺のことは忘れて、幸せになってくれ」
「……嫌だ」
「っ……いいから……行けっ!こ、心変わりして、今からき……お前のことを食うかもしれないぞ!だから……行け……」

 ずるっと。蝶の頬から、蜘蛛の手が力無く巣の上に落ちた。


 ──……霞んで行く意識の中。

 
 蝶が羽ばたいていく姿が、ぼんやりと蜘蛛の視界に見えた。

「……さようなら、美しい君よ。幸せに…なってく……──」


 蜘蛛は、八つの目蓋をゆっくりと閉じた───……





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