私を忘れた彼を やっぱり私は忘れられない

裕美とケン

ユキは、東京に行った3日間でマンション
まで決めて裕美と約束した通りに3日後に
裕美の待つ漁村に帰ってきた。

家に戻る前に海岸に足を延ばして潮風に
吹かれて今日は穏やかな海を眺めていると
心が落ち着いてくる。

海は穏やかな優しい日ばかりではない。

荒れ狂う怒っている日の海も、暗く色を
変えて思い悩んでいるような海もある。

漁師にとってはそんな海の機嫌を見るのも
大事な仕事の一つだ。

手伝っていた漁師のおっちゃんは、風と空の
読み方で海の状態がわかると言った。

おっちゃんは3日先の天気まで
読むことができた。

それも確立はほとんど100%なのだ。

天気予報士顔負けだ。

そういうといつも嬉しそうに顔を
くしゃくしゃにして笑うのだ。

そんなおっちゃんが大好きだった。

ここでの暮らしはユキにとって心穏やかで
恵子という母親に裕美という妹がいて
二人を守っていくことが自分の恩返しだと
思っていた。

その暮らしも楽しくて笑いが絶えない
家だった。

二人とも底抜けに明るくて裕福ではない
けれど心豊かに暮らしていた。

だからなのか自分が記憶喪失で過去が
全く分からなくてもそのうち気にも
しなくなった。

ただ戸籍もなく住民票や運転免許証も
なくていろんなことが不便になってきたので、
ちゃんと自分の過去に向き合おうと考えた
矢先に記憶がどっと押し寄せて来て、
頭がいっぱいになってしまった。
そして最愛の幸の事を思い出して,すぐに
飛んでいけない状況になってしまっている
現在に焦りを感じていた。
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