私を忘れた彼を やっぱり私は忘れられない
そこに山梨が幸から頼まれたと言って
俺の大切な書類と幸と暮らしたマンションの
鍵と幸の伝言を持ってきてくれた。

本当に間の悪い事に恵子さんの葬儀の日に
幸が突然やってきた。

幸にしたら一分一秒でも早く会いたかったから
飛んできてくれたのだろう。

俺も状況があんなに混沌としていなければ
幸の所に飛んで行っていた。

裕美が俺に縋りついて泣いていたのを見て
幸はきっと誤解している。

俺もすぐに幸の所に行ってやれなかった。

だから“幸せになってね“などという伝言が
あったのだ。
山梨には幸の連絡先は教えてもらえなかった。

今日行った伊藤先生も幸に教えないでほしい
と言われていると言って教えては
もらえなかった。

幸は俺を忘れようとしているのだろうか?

事務所に行って貝原社長に、突っ込まれた
事に反論できなかった。

俺の幸への気持ちはいい訳だと言った。

裕美と暮らし続けるのであれば、どういう
状態であっても幸への裏切りに他ならないと
貝原社長に言われて何も言い返せなかった。

裕美への気持ちは妹みたいなものなのだと
言っても、妹ではない赤の他人同士なのだ。

実際裕美は俺の事を兄とは思っていない
一人の男として意識しているだろう。

どう言い繕っても、俺は幸より裕美を
選んだと幸は思っているはずだ。

それでも、俺は裕美を見捨てることはできない
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