鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
「あれを忘れるほど、今もモテ人生というわけか。だったら絢乃くらい簡単に落とせるだろ。賭けないか? 三か月以内に絢乃がお前に惚れるかどうかを。俺は惚れる方にビール一杯」

本気で賭けを持ちかけているのではなく、お調子者の和志らしい励ましだ。

それがわかっているので軽く笑って、残り少ないグラスビールに手を伸ばす。

「そんなに簡単にはいかないよ」

「お客さん?」

カウンターの内側で、マスターの戸惑っている声がした。

自分たちではなく来店したばかりの客に対してのようで、肩越しに振り返る。

するとそこには――。

「絢乃さん?」

今朝見たのと同じライトグレーのパンツスーツ姿にパンプスを履いた絢乃が、ショックを受けたような顔をしてすぐ後ろに立っていた。

今の話を聞かれたのかと焦ると同時に、彼女が鋼鉄のような笑みを浮かべる。

「私にも聞かせてもらえる? 私を惚れさせるという恋愛ゲームの話を」



* * *



時を遡ること一時間前、絢乃は秘書に見送られて社用車に乗り込んだ。

運転するのは営業部の社員で助手席に同部署の部長、絢乃は後部席にひとりで座っている。

都内のとある駅前ビルで老朽化のため取り壊しの噂がある。

ビジネスチャンスなので地権者と話しておきたく、そのアポイントを取れたのがこの時間帯だった。

会話のない車内の空気はなんとなく重たい。

「ラジオをかけてくれない?」

信号待ちで社員に声をかけた。

「はい。どの局に合わせますか?」

< 116 / 237 >

この作品をシェア

pagetop