鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
「どこでもいいわ」

聞きたいわけではない。

前列に座るふたりがこちらの機嫌を窺っているような雰囲気なので、ラジオが流れていた方が彼らは気が楽になるだろう。

滞りなく地権者との面会が済んだのは、それから五十分後のことだった。

建て直しをするなら山城建設も候補に入れるという言葉をもらえ、初回の面会としては悪くない感触だ。

地権者の心をしっかりと掴むまで定期的に面会や接待を続けるつもりで、社長は社の看板を背負った営業マンでもある。

帰路の車内もほとんど会話はなく、絢乃はラジオを聞き流しながら車窓を眺めていた。

ネオン輝く駅前の繁華街。

この辺りはリーズナブルな飲食店や若者が好きそうなテナントが多い。

(この近くにある大学、お兄ちゃんの母校よね)

明るい従兄の顔を思い出した途端に胸に寂しさが吹き抜ける。

仕事に追われている時は平気だが、こういう空き時間に三条家の家族を思い出すと会いたくなるのだ。

(行ってはいけないと思うから、余計に会いたくなる。美沙さんはどうしているかしら。不安なく過ごせてる? 聞きたいけど、連絡も取らないほうがいいわよね)

三条家の人たちと連絡を取り合っているのを知られたら、美沙は不安の中に逆戻りで距離を置いた意味がない。

(偶然、外でばったり会えないかしら。そうしたら近況を聞けるのに)

しんみりとした気持ちで車窓を眺める。

赤信号で停車した場所は、駅前通りの古い商業ビルの前だ。

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