鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
そう思ったが、早鐘を打ち鳴らす鼓動が苦しくて両手で彼の胸を押した。

すぐに解放され、もとの距離に戻ってくれたのでホッとする。

抱きしめられた時は強引さに戸惑ったが、結局は絢乃の意志を無視しないのが彼らしい。

「誤解しないでね。少しも嫌じゃなかったわ。でもこういうのに慣れていないから、少しずつにして」

「ウブだな」と昴が微笑した。

「三十にもなって情けないわよね。面倒くさい女でごめんなさい」

「いい意味で言ったんだよ。君はあの頃のように今でも純粋だ。同居した初日にベッドに誘ってきたのは、かなり無理していたんだな」

クスッと余裕のある笑い方をされて、羞恥がかさむ。

「あの時は早く妊娠することしか考えていなかったのよ。父の望みが、親友と自分の孫を手に入れることだったから。子供ができれば離婚しても許されると思って」

白状してから、昴の顔色を気にした。

傷つけてしまったかと恐れたが、むしろ嬉しそうな目をされた。

「今は違うんだろ?」

「ええ。昴さんと夫婦を続けたい。あなたのいるこの家が私の居場所なの」

少し驚いたような顔をした昴が、「よかった」としみじみと言う。

「その言葉が聞きたかった」

ホッとしている様子なので、自分が妻の帰る場所になれている自信がなかったのだろう。

(会社経営も私生活も、私に比べると難なくこなしているように見えるけど、昴さんでも不安になるのね)

肩を抱き寄せられたが、今度は驚かずにスキンシップを受け入れられた。

彼の広い肩にもたれるのは心地いい。

時刻は二時を過ぎていて寝ないといけないが、もう少しだけこうしていたかった。



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