鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
カットソーの上に紺色のジャケットを羽織った彼に驚く。

「昴さん、どうして?」

「すぐ済むような話だったから、迎えに来たんだ。水沢さんという方に門を開けてもらった」

家政婦という立場上、表立って山城家の人たちを悪く言えないが、水沢は呼び出された絢乃を心配してくれていたようだ。

家人の許可を取らずに昴を通したのは、絢乃を助けてほしいという気持ちからだろう。

けれども、どうやって入ったのか聞きたかったわけではない。

一緒に行くという申し出は断ったのに、勝手に来るほど心配したのだろうか。

(私、そんなに不安そうに見えた?)

気丈にしていたつもりだったのだが。

「昴くん」

ソファから立ち上がった父に、昴が会釈する。

「お久しぶりです。突然、お邪魔してすみません。玄関先で待たせてもらおうと思ったのですが、私の名前と離婚という声が聞こえたもので。一体、どういうことでしょうか?」

バツが悪そうな顔の父が咳払いをした。

昴を巻き込みたくなかったが聞かれたからには説明が必要なので、絢乃が口を開く。

「妹が昴さんを気に入ってしまったの。離婚してと喚かれて――」

唯華が焦ったように口を挟む。

「そんな乱暴な言い方してないわ!」

絢乃を押しのけるようにして昴の前に立った妹が、しおらしい態度で頭を下げた。

「昴さん、はじめまして。唯華と申します。ずっとお会いしたかったのに、姉に邪魔されてできませんでした」

後ろ姿はもじもじと恥ずかしそうだ。

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