鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
『座敷での会食なんだから、振袖の方がいいだろ』とここへ着く前に父に苦言を呈されたが、めかし込む必要性を感じない。

結婚は確約済みで相手に気に入られる必要はなく、まだ独身とはいえ三十歳で振袖はどうなのかとも思う。

才色兼備というお世辞には微笑みだけを返し、なにも言わなかった。

婚約者の叔父が反応を気にしているのは、絢乃ではなく左隣に座っている父のようだから。

「褒めていただけるうちに結婚が決まって父親としてはホッとしています。会社の方はまぁ、頑張ってくれていますが、絢乃はまだ二年目ですから」

恰幅がよくグレーヘアが似合う絢乃の父は、山城建設株式会社の会長だ。

よく言えば威厳があり、悪く言えば独裁的な性格をしている。

山城建設は高層マンションやホテル、病院や学校などの大型建造物を得意とする建設会社で、若い頃に父が設立し一代で業界最王手の大企業に伸し上げた。

七十歳を目前にした昨年、絢乃に取締役社長の座を譲った父だが、代表取締役会長として今も君臨している。

父の命令は絶対で、意見すれば娘でも解任されるだろう。

この結婚も、絢乃の意志とは関係なく決まったことだった。

「ひよっこの絢乃に比べると昴(すばる)くんはすでに風格を感じますな。実に頼もしい。昴くんと縁組が叶って絢乃は幸せ者です」

絢乃の向かいに座っている男性が婚約者で、立花(たちばな)昴という。

三十六歳の彼は立花リアルエステイトという不動産会社の代表取締役社長を三年ほど務めている。

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