鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
年商でいえば山城建設に及ばないが、日本で三指に入る不動産会社で大切な取引先だ。

「恐縮です」

箸を置いた昴が人当たりのよさそうな笑みを絢乃の父に向けた。

きりっとした眉の下には切れ長二重の精悍な双眸があり、鼻筋が通った美形で高身長。

ネイビースーツがよく似合っている。

七三分けのビジネスヘアだがおじさんくささは微塵もなく、メンズ雑誌の表紙を飾りそうな華がある。

声は低めで伸びやかだ。

「そう言っていただけると、私以上に父が喜ぶと思います。『俺の唯一の好敵手だ』と、生前によく話していましたから」

昴の父は三年前に脳出血で急死し、ひとり息子の彼が会社を継いだ。

絢乃の父とは中学から大学まで机を並べた一番の親友だと聞いている。

チラッと左隣を見ると、父がしみじみとした顔で頷いていた。

「私もそう思っていたんですよ。あと十年は競い合っていけるはずだったんだが、病には勝てないものですな。本当に残念だ」

親友を亡くした経験に少しも同情してあげられない。

絢乃の母が亡くなった時はひと粒の涙もこぼさなかったくせにと、冷ややかな気持ちになるばかりだ。

産みの母は十九年前、絢乃が十一歳の時に他界している。

病死だが数年間、心身の不調をきたしての結果で、父が愛人を作り子供までもうけて二重生活していたのが原因だと思っている。

まだ子供だった絢乃は、日に日に元気をなくしていく母を心配するしかできなかった。

その時の愛人が今、母親面をして絢乃の右隣に座っている。

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