鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
「ありがとう。ドレッシング、取って」

「これも使うの?」

「醤油ベースだろ? チャーハンにちょうどいい」

絢乃が作った塩辛い和風ドレッシングをちょっと舐めてから、昴が鍋肌に沿うように少量回し入れた。

醤油の香ばしい香りが広がる。

火を止めた昴が手のひらにのせて味見をし、そのあとにスプーンですくったチャーハンを絢乃の口に向けた。

気さくな行為に戸惑いつつもひと口食べて、「美味しいわ!」と目を丸くした。

店で出てくるもののようにパラパラとして炒め具合が抜群だ。

「昴さんは料理が得意なの?」

「得意とまでは言えないな。ひとり暮らしが長かったから外食が多い。わざわざ自分ひとりのために作ろうとは思えない。メジャーな料理をひと通り作れるのは、学生時代のアルバイトのお陰だ」

大学生の頃は居酒屋の厨房でアルバイトをしていたと聞き、また驚いた。

子供の頃の家庭の経済状況は絢乃と似たようなものだろう。

それならば彼も小遣いは十分にもらえるはずで、アルバイトをする必要がないと思っていたからだ。

「私は今の会社のインターン以外、アルバイト経験がないの。てっきり昴さんも同じだと思っていたわ。もしかして社会経験のために?」

「そんなかっこいい理由じゃないよ。同じ学部の友人がみんなアルバイトをしてたから。俺だけ親から小遣いをもらってると言いたくなかったんだ」

「そうなの」

チャーハンと市販のドレッシングをかけたサラダをダイニングテーブルに並べ、向かい合って座った。

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