鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
社員のミスを笑って許せる場合ばかりじゃないと思うが、彼は絢乃と違い社員に好かれていそうだ。

それが羨ましい。

(昴さんのように、おおらかで柔らかい態度に変えたらどうなるかしら?)

ふと思ったが絢乃の場合は舐められるだけで、社員からの信頼が増すとは思えない。

甘い顔をするなと父に叱られるのも必至だ。

それでも少しくらいは優しさも必要では――そう思い、ハッとした。

(影響されるところだった。私は私よ)

迷いを絶とうとしていると内線電話が鳴った。

昼食をどうするかという、担当秘書からのいつもの連絡だろう。

しかし受話器を耳に当てると、やけに緊張した若い女性の声がした。

『秘書課の川崎です。昼食をお持ちしてよろしいでしょうか?』

(大野さんじゃない? ああ、そういえば外出中だったわ)

二時間後に大手取引先に出向く予定なので、その手土産を大野が買いに行っている。

先方の社長の好みは、とある有名店の生菓子だ。

日持ちがしないものなので、当日に用意しなければならない。

そういうわけで絢乃の昼食を他の秘書に頼んだのだろう。

電話口の川崎は今年、新卒で入社したばかりの新人で、絢乃と直接話したのは入社時の挨拶以来だ。

「昼食はいらないわ。コーヒーだけお願い。シュガーは三つで」

『かしこまりました。失礼いたします』

電話を切られて眉根を寄せた。

(上司やお客様が相手の場合は、先に切るのはマナー違反よ)

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