鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
コーヒーを持ってきた時に注意しようと思いながら、社用のアドレスに届いたメールの返信作業を始める。

三件分を送信し終えた時にドアがノックされた。

「どうぞ」

「失礼いたします」

川崎は華奢な体形でツーピースのオフィススーツ姿が初々しい。

手が震えているのか、トレーにのせたコーヒーカップが小さく音を立てていた。

(そこまで緊張するものなの?)

電話の切り方について注意すれば泣かせてしまいそうだ。

それくらいの様子だったので、後ほど大野から伝えてもらうことにした。

「コーヒー、そこに置いてもらえる?」

パソコンや重要書類がある執務机にこぼされては困るので、ミーティングテーブルを指さした。

事前に危険を回避したつもりでいたが、パンプスの爪先を毛足の短い絨毯に引っかけた彼女がつんのめるように転んだ。

(嘘でしょ!?)

カップとソーサーが割れ、こぼれたコーヒーが広範囲に飛び散る。

「ももも、申し訳ございません!」

呆気に取られている絢乃に向けて、彼女が額を絨毯に押し当てた。

(これはよくないわね。私が)

ただ緊張していたのではなく、怯えていたようだ。

彼女に対してなにかしたわけではないけれど、怖いイメージを作ってきたのは絢乃なので反省した。

(コーヒーをこぼしたのも私のせいだわ。怒ってはいけない。こんな時、昴さんならどんな言葉をかけるのかしら……)

「怪我はない?」

「は、はい」

なるべく優しい声で心配すると、川崎が驚いたように顔を上げた。

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