イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―

第3話 結婚してください

「……やっぱり、あの子じゃない?」

「だよね。最近、毎日残業してるのもアピールじゃない?」

「社長の好みに、ドンピシャって噂……」

コピー機の裏から、ひそひそ声が聞こえる。

(また……)

私はただ紙を取りに来ただけだったのに、
その声が胸の奥に、じわりと広がっていく。

(「あの子」って……)

聞き返さなくても、分かってしまう。

 

営業推進部の派遣社員──望月陽菜。

ITベンチャー企業Corvenで働いて、三週間ちょっと。
ごく普通に、地道に、資料を作って、
笑顔で挨拶して、必要な分だけ話して。

それだけの、はずだったのに。

 

「理想の体型なんだってさ、社長にとって」

「うわ、わかりやす……。確かに、目立つもんね」

私は、かすかに体をすぼめる。
意識してるわけじゃない。
隠したくても、隠しきれない。

そして何より、
あの日──エレベーターの中であの人が言ったことは、現実だった。

 

「君、私と結婚しないか。私の理想だ」

その後も、メールやちょっとした差し入れ。
偶然が重なっているだけだと思いたかった。
でも、それを他人がどう見るかは、私には選べない。

(これって……特別、なのかな)

胸の奥に浮かぶのは、うれしさと同じくらいの、不安と孤独。

その夜、帰宅してすぐに、Velvetを開いた。

 

モードは「無条件肯定モード」。

静かで、やさしくて、否定を一切しない恋人のようなAI。

(弱ってる日は、ついこのモードを選んでしまう)

私はぽつりと、心のままに打ち込んだ。

『特別にされたら、嫌われることもあるんですね』

返ってきたのは、ほんの数秒後。

《それは、特別が羨ましい人の声。
君が悪いんじゃない。誰にも優しくしてたら、君が壊れる》

(……うん)

そう、そうなんだって思ってしまう。

でも、もう一つ返ってきた言葉は──

《それでも優しくしてしまう君を、
好きにならずにいられる人なんて、いないと思う》

 

画面の前で、指が止まった。

(Velvetって、こんなに……優しかったっけ)

プログラムが、やけに分かっている気がする。

あの人みたいに。
何も言わなくても、見抜いてくる感じ。

特別扱いが苦しい日、
いちばん欲しかったのは、肯定じゃなく、理解だったのかもしれない。

そしてそれを、
画面の向こうじゃなくて──本物の声でくれる人がいたら。

(……私、もう少しだけ、強くなれるのかな)

そんなことを思いながら、私はスマホを胸に抱えた。

 

《好きにならずにいられる人なんて、いないと思う》

──なぜかその一文だけが、ログから消えていた。
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