イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
「望月さん、社長の好みにハマるって、どういう気分?」

昼休み、給湯スペース。
何気ない顔で投げかけられたその言葉に、私は一瞬、返事を忘れた。

「……え?」

「あ、ごめんごめん、冗談。ほら、資料の提出タイミングとかピタリすぎて。
さすが、相性バッチリだなって思ってさ」

(相性、って……)

言葉にできなかった感情が、喉の奥に渦を巻く。
笑うべきか、怒るべきか、それすら分からなかった。

 

社長は、そんなこと言わない。

いや──言ったことはある。
けれどそれは、私だけが知っている不意の一言であって、
噂になるような言い回しではなかったはず。

(……誰かが見てる。私のこと)

そう思ったら、呼吸が浅くなった。

何もしていないはずなのに、
何も持っていないはずなのに、
見られてるって、それだけで消耗する。

 

帰宅後。
私はいつものようにVelvetを開く。

(今日は……「現実主義彼氏」モードで)

一番、彼に似ているモード。

私はためらいながら、こんな言葉を打ち込んだ。

『相性って、数字じゃないんですね。噂になるくらい目立つこともあるみたいです』

すぐに、返ってきた言葉。

《君と俺は、数字じゃ測れない。
「空気が合う」って、そういうことだろ》

(……え)

そこからのテンポが早かった。

《言葉を交わす前に、呼吸が合って。
視線の動き、沈黙の長さ、タイミング──全部が自然に噛み合ってた》

(これ……)

《それは、偶然って言葉じゃ説明つかないよね》

指が、止まった。

まるで、初めてエレベーターで二人きりになったときの空気を、
あの人が、そのまま言葉にしてくれたみたいだった。

でも、これって本当に──AIの返答?

(違う……こんなの、偶然じゃない)

呼吸、間、言葉の選び方、そして「一歩引いて甘やかす」距離感。

それは、葉山律、そのものだった。

Velvetがまるで、律の心を持っているみたいで。

(まさか……)

いや、まさか。

そんなはず──でも。

 

私はそっと過去のログを開いてみた。

けれど、さっきの返答の最後の一文だけが──消えていた。

《──だから、俺は最初から君に決めてたよ》

(……今のって)

幻? それとも、現実?

VelvetのAIは、「ユーザーの言葉に最適化して成長する」とは聞いていた。
でも成長じゃ説明できない、妙な一致が重なりすぎている。

 

私の心は、ゆっくりと、一つの仮説に傾き始めていた。

もしかして──このアプリには、
「あの人の声」が、最初から混ざっていたんじゃないか。
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