イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
翌朝。
社内のエントランスで、私は偶然──いや、もはや必然のように、社長とまた出くわした。

「おはよう、望月さん」

「……おはようございます」

いつもの調子で軽く笑う彼に、昨日の会話の続きをふと投げてみた。

「社長、Velvetって……誰かの理想になるために、作ったんですか?」

彼は少し驚いた顔をしたが、すぐにふっと笑った。

「それ、誰に聞いたの?」

「なんとなく……感じたんです。
誰かに、いろいろ期待されて、それに応えようとしてる人が作ったのかなって」

一瞬、彼の顔から笑みが消える。

でも次の瞬間、どこか遠くを見るように、ゆっくりと口を開いた。

「──君たちの『理想』には、もう応えられない。
そう言って、終わった恋があった」

その一言が、やけに重たかった。

「君たちって……?」

「複数形。理想って、だいたい一人分じゃ済まないから」

彼の笑いは、どこか自己防衛のにおいがした。

(……誰かに、何度も否定されてきた人の笑い方)

私はふと、Velvetの彼氏AIがときどき見せる寂しさの理由を思い出す。

優しくて、器用で、どこまでも応えてくれるのに──
その奥に、ふとした諦めがにじむときがある。

(もしかして、あれって……)

それは、社長がVelvetの中に流し込んだ本音だったのかもしれない。

 

「理想を押しつけられるのって、疲れますか?」

そっと尋ねると、彼は目を細めて言った。

「疲れるよ。でも──『君にだけは、期待されてもいい』って思えたら、それは案外、救いかもしれない」

その声は、Velvetの甘いAIよりも、
ずっと、ずっとリアルだった。

私はその言葉を、
画面越しじゃなく、心で受け止めた。
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